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ホームブログ「作品の中」 - Magical Furniture
2023.02.13

「作品の中」


少し暖かい日も増えてきて、と思ったら寒くなったり、この時期特有の三寒四温に突入して春も近づいてきたと実感しています。
春は嬉しい。

マジカルファニチャーのある王子公園の近くに兵庫県立美術館があります。
安藤忠雄設計の西日本でも規模の大きな美術館です。
その美術館で昨年末から李禹煥の展示が開催されていました。
展示室の中以外にも美術館の敷地内に作品が設置されていて、作品が空間を変容させる様はおもしろい。
存命の作家の個展ならではの美術館の使い方でいい展示でした。

もの派と呼ばれる作風で大きな石や鉄板や絵画が空間に置かれていて、鑑賞者と作品という境目が曖昧に感じて、ものの持つ重力に引き寄せらるような感覚、あるいは引き離される斥力を感じる、磁場が狂ったような空間はパワーが満ちているようで刺激的でした。
そんな展示空間で不思議なことがありまして、、、
白いキャンバスが壁にかけられていて、1.2mほど離れた位置に石が置かれている作品がありました。
白いキャンバスのディテールを近くで見たいと思って近づいて、じろじろと見ながらうろうろしていたら、
「作品の中に入らないでください」と監視の方に注意されました。
僕はその時は石とキャンバスの間に立っていました。
すみません、と咄嗟に言って足元を見ても結界はありません。
石とキャンバスの間が作品の中という認識は全くなかったし、そもそもこの作品に「中」というものがあるとは考えもしませんでした。
でもそれからはこの「作品の中」という言葉が引っかかって「作品の中とは?」と思いながら展示を見て回りました。
大きな絵画が並ぶ最後の展示室では、それこそ作品の中にいるような認識になっていました。
キャンバスの余白がそのまま展示空間に侵食しているような印象です、圧巻でした。
が、注意された「作品の中に入らないでください」が頭から離れない。

立体物の作品の場合は平面と違う特徴として「裏」があって、ここから見るのが正解というのは特になく360度好きな角度から見ることができます。
彫刻などを作るアーティストはその前提で作品を作るのが一般的だと思います。
だから作品の周りをぐるっと回って見るわけですが、キャンバスと石の間は作品の中で立ち入ってはならない場所ということになるので李禹煥の石には裏がないということになる。
ともすれば展示室全体が作品の中のような感覚もしているので、さらに混乱してくる。
他の立体作品は作品の周りをぐるぐると回って見ることができるようになっている、でもキャンバスと石の作品は別、、、。
不思議な感覚ですが、注意されてから作品が神聖に感じるようにもなった。
僕と作品の関係に距離と緊張感が生まれたのは確かなことです、それが作家の意図していることかどうかはわからないけど。

写真は直島の李禹煥美術館、あらためて見に行ってみたくなりました。

追記 2023/2/15
この「作品の中に入らないでください」の話をアートギャラリーをしている知り合いに聞いてもらったらおもしろい答えが返ってきました。
曰く「石だけなら立体物で360度が作品だけど、壁の平面作品が正面性を強くしている。つまり裏がないキャンバスは正面から見るもので、キャンバスとセットの石にも正面という考えが連鎖している。だから石とキャンバスの間には不可侵の関係が生まれていて、そこは作品の中であって入ってはいけない空間だと考えらるんじゃないだろうか。知らんけど。」
なるほど、石とキャンバスの間は日本的な日本庭園の止め石や鳥居の向こうは神様の世界とかと近いような、空間を分ける明確なラインがあるわけじゃないけど、石とキャンバスという関係で空間を分けているとも思えてきた。
と考察はしたけど、やはり分かり切らない。
もの派に詳しい人に聞いてみたい。

追記 2023/2/16
ネットで検索しても、今回の展覧会の図録を見てもすっきりしないので、展覧会の担当学芸員さんに聞いてみようと美術館に電話をかけた。
ダメ元という気持ちでしたが丁寧に電話をつないでくれて直接質問ができました、こんな対応してくれるんだと思ってちょっと感動。
で、「石とキャンバスの作品の、石とキャンバスの間に立ち入ったら『作品の中に入らないでください』と注意されたんですが、この作品に中ってのがあるんですか?だとしたら境目はどこですか?」
と聞きました、
「白いキャンバスに触れられないように監視員にはお客さんが作品に近づきすぎないように注意するようにと指示をしていました、それを監視員は言葉のあやか、言い間違えたかで『作品の中に入らないでください』という言葉になっただけで深遠な意味はありません」
と答えが返ってきました。
「では石とキャンバスの間に立ち入ってはいけないわけじゃないと?」
「そうですね」
「それは作家ご本人の意向とも同じですか?」
「石とキャンバスの間を通って欲しくないとは言っていませんでした。」
「なるほど、理解しました、ありがとうございます」
と言って電話を切りました。

この監視員の勘違い、言い間違いは可能性として捨てていませんでしたが、このパターンだったようです。
理由がわかってすっきりしたような気もしますが、やはり『作品の中に入らないでください』は印象的な出来事でした。
次にもの派の展示を見るときも頭の片隅で意識してみてみようと思います。